現状無題

17. Aチーム

泊まり込みでの練習の成果により、そしてバンドメンバーのチームワークにより、イベント開催日の数日前に一応の形ができた。 イベント会場のある岩手に乗り込む日は丁度東北新幹線の開業日だったのではないでしょうか。指定席が取れず、乗降口のスペースに皆…

16. Aチーム

音楽の教職課程に通っているKさんに、バンドの趣旨、5名編成でパソコンのキーボードを手弾きする旨を伝えた。Kさんは目を輝かせ、早速同じ大学の同級生や下級生に声をかけてくれた。原則は、皆ピアノが弾けることだったが、Kさんの大学の仲間は、皆ピアノが…

15.Aチーム

吉田の頭の中には、すっかりそのバンドが演奏している姿が増殖していきました。これを企画として理解してもらうには、文章や言葉ではない、全てを絵にしてしまおう、と思いつきました。 たまたま吉田が会長を務めている、地域のバイククラブのメンバーにデザ…

14. Aチーム

吉田は小さな頃から音楽が好きだった。小学校低学年の頃には、声が良いと認められ、先生の勧めがありラジオ番組で童謡を歌ったことがある。 大学では、無線クラブであったが、クラブの友人達とはよくギターを弾いてフォークソングを歌っていた。 そんな音楽…

13. Aチーム

顧問の先生との原稿での付き合いは、原稿だけに止まらず先生の講演活動やイベント出演に拡大されていった。 確か季節は春だった。夏休みの企画で、先生の故郷である岩手で少年少女向け研修イベント、パソコンサマーキャンプの企画があり、パソコン研修は当時…

12. Aチーム

マイクロコンピューターの入門記事を雑誌に連載し始めて、吉田は毎月原稿の締め切り前後に顧問の先生と打ち合わせすることが定例となった。それは、文章見習いの徒にあっては、原稿に赤を入れてもらい、次号の内容についてアドバイスを受ける貴重な時間だっ…

11. 下地

月曜日から土曜日まで毎日、ただ一人で自由が丘のリーダーの家に通い、ただ一人広い部屋で黙々とフローチャートの清書をして数ヶ月、吉田啓吾は清書とはいえ綺麗に分かりやすくするために工夫することは多数あるのだ、と確信した。 この仕事から解放されたの…

10.下地

文書や資料の標準化を仕事と任命されたが、吉田は元より文章を書くなど全くの不得意としていた。ただ、これまで電気電子を学び続けてきた根本にある、理屈や科学については、分かりやすさに対する憧れを持っていたように思える。 当面の仕事は、ソフトウエア…

9.勤勉

思えばこの70年間、いやいや大学3年生の時からだから約50年間と言ったほうが良いだろうが、吉田啓吾は勤勉であった。もちろんそれには訳があり、福岡の大学を中退するまでの吉田啓吾は、薄弱で流されやすい意思の青年でしかなかった。ただその意志薄弱の結果…

8.転機

今回、小腸GISTという非常に特殊な病気が入院し発見されて、改めて10年前にこれまた会社の健診で発見された腎癌の手術の事を思い出した。 その当時には既に父親も他界して6年ほど経っていたが、癌宣告を受けて今回のように父親との関係を思い出すことはなか…

7 前触れ

不思議な現象を経験した翌日、回診の折に先生にその内容を報告した。荒唐無稽な話なので、先生も笑いながら、然しながら科学者としての眼で対応してくれた。その痛み止めは、血圧を下げる働きもあり、それが悪さをして夢を見させたのだろう、と。もちろん、…

6 前触れ

そうそう、手術後すぐに妙な体験をした。生まれて初めてで、もう味わうことのない経験だろう。 手術は10月29日の8時半からだった。10年前の腎癌の摘出手術と同様に全身麻酔であり、予備的に脊髄に打つ硬膜外麻酔の併用であった。全身麻酔は、あっという間に…

5 前触れ

結局、50日の入院期間中、ようやく病院食を食べることが出来たのは手術後の10日間で、その間で重湯から全粥までの一通りを経験した。それまでの40日は、高カロリー補給の首から打つ点滴と、補助するためのエレンタールという合成栄養ジュース一日300mlであっ…

4 前触れ

手術まで1ヶ月もある。しかしその間、家にも戻れない。それは、腸の閉塞により点滴でしか栄養が補給できないからに他ならなかった。つまり根本解決がないままに、手術までの約1ヶ月をカーテン越しの戦友たちと過ごしたのである。根本解決は、開腹手術して腫…

3 前触れ

胃腸の痛みは、これまでの経験にはないものだった。 検査の結果を踏まえて、外来での医者は直ちに入院を告げた。血液検査の結果は炎症を示し、レントゲンは腸閉塞の兆候を示しており、腸の安静を図るためにおよそ2週間程度の入院が必要だという。 入院などの…

2 前触れ

いま自分は、70歳を迎えている。 どうしてこうも、父親についてのまとめに気が急いたのかは今も分からない。人生の一つのけじめの歳だからかな、程度の受け止めをしていた。 そして数日をかけて、父親とともに過ごした長い年月を振り返り、その断片をノート…

1.前触れ

この半年、妙に父親のことが気になっていた。そうしてあるとき突然思い立って、古い記憶を辿りながら自分と父親の長い間の憎しみの記録のまとめをしたばかりだった。誤解を招くといけないが、自分と父親が双方憎み合っていた訳でなく、自分が一方的に憎んで…