拝啓 義兄殿  作:西戸 崎(Saito Misaki)

昨年はいろいろなことがありましたね。
それは貴方の一本の電話から始まりました。
受話器をとる前から、何か震えるような予感がしたんです。
姉がリハビリの最中に、突然に肺梗塞になり、
もう駄目だ、という貴方の絶望した臨終の伝え。
私はすぐに仏壇に線香を灯し、無き父母に手を合わせて祈りました。
まだ連れ行かないでほしい。
折角姉が掴んだ、束の間の幸せなのに、まだ連れて行かないでと。
迷いながら苦悩を重ねて、漸く貴方にめぐり合えたのに
こんな残酷があってよいのだろうか。
だがいまはもう、願いも通じ、片手が不自由なばかりに回復しています。
ありがたいことです。


昨年はいろいろなことがありましたね。
私は、御蔭様で経過もよく、少しずつ太り始めました。
ある日突然、会社の健診で宣告を受け、手術するまでの絶望的な日々。
あの頃を思い返せば、地を這って生きている毎日でした。
そんな時、貴方は姉とともにお見舞いに来てくれました。
人にすがりたい毎日でした。笑いも凍える毎日でした。
まだ、誰にも恩返しが出来ていないのに、ひょっとすると逝ってしまうのか。
無念な想いばかりに囚われていたのです。
貴方達が支えてくれた御蔭で、連れ合いともどもの、今があります。
今はもう、姉も私も随分よくなって、
死を見つめあった病人同士が 笑いあって過ごせています。
ありがたいことです。

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