ある日のこと

もう一月前ほどになろうか、強く記憶に残った出来事があった。
結構イライラしていた、酒も入っていたが、23時近くに御茶ノ水から総武線に乗った。
稲毛からタクシーで帰るつもりであった。
電車は結構込み合っていて、浅草橋から乗り込んできた30後半のがっしりとした体格で結構いい顔をした男性が、私の横に立った。相手は酔っ払っていた。
その男性はフラフラしながら、電車の動きと共に大きく揺られ、都度自分と肩が触れ合う。
イテーな馬鹿ヤロー。といいながら私を小突いてきた、足も踏んづけてきた。
相手の向こう隣の女性は、完全に避けようとしている。
私も、イライラしていたが、何だか自分の醜態を見ているようで、いつものように頭に血が昇り喧嘩をするという兆候は何故だか起きなかった。(いつもは血は昇り、口喧嘩程度だが)
どうしたことだろう。小さな声で、お互い様、お互い様、といってしまった。
また相手が挑戦してきても、お互い様、お互い様、と小さな声で繰り返した。
何度くらいこのようなやり取りをしただろう。
そのうち相手の目の前の席が空き、相手は座った。
気を良くしたのか、今度は話しかけてきた。幾つだ。何やってんだ。そうか。頑張れよ。と。
私は、適当に相手をしながらも、一応ちゃんと答えていた。
穏やかになったようだ。
錦糸町で相手は降り、私に席を譲ってくれた。
そのときに、頑張れよおじさん。
あんたもなお兄さん。
相手は、黙って握手を求めてきた。
強く握り返してやった。
相手の手は、身体に比例して、かなりがっちりしていた。あんな拳骨で殴られていれば、相当なダメージを受けただろうな。ぞっとした。
それから稲毛まで、私の気持ちは、何だか清涼感に包まれて、心の中で、頑張れよお兄さんと叫んでいた。
イライラしていた私の気持ちは、とうに治まっていた。
いい夜だったな。