想い

人の心の想いは、この年になると、静かな祈りと率直な言葉でしか伝えられなくなってしまう。
しかし、余りにも言葉が率直過ぎて警戒される事もままある。率直を率直として互いに受止め合うことができるようになるには、大層長い時間の共有が必要である。
人の心の想いは、この年になると、求めることが前提ではなくなる。心を許せば許すほど。
大切な人々が、健康で幸せであり続けることを願うばかりである。
いくつかの病を通り越し、またさらに峠に迷おうとしているとき、人の心は枯れてしまうのかも知れない。
病の症状に一喜一憂し、心は消耗し、どんなに豊かに水を含んでいた湿原も、カサカサに干上がってしまうのかもしれない。
そうして心は、激しい自己との葛藤の中、悪魔となり神仏となり、大人となり幼児となり、鬼畜となり愛の犬猫となり、勇者となり怯える貧者となり、天国に生き地獄に迷う。
このような葛藤変化(へんげ)の中で、心は、研ぎ澄まされて純粋なものとなっていく。
枯れた心の奥に光る、豊かな微笑を感じ取れる人となりたい。