15.Aチーム

吉田の頭の中には、すっかりそのバンドが演奏している姿が増殖していきました。これを企画として理解してもらうには、文章や言葉ではない、全てを絵にしてしまおう、と思いつきました。
たまたま吉田が会長を務めている、地域のバイククラブのメンバーにデザイナーがいることを思い出し、吉田は思いの丈を喋り、その演奏姿を複数枚のイラストにしてもらいました。パソコンのPC6000をギターの形をした胴に埋め込み、ギターを中心にした女性バンドの幾つかのカットを描いてもらったのです。
このイラストを使って、あとは喋りで先生とイベントの主催者にプレゼンを行いました。結果は大好評で、やろうやろう、是非やろう、とGOが出たのです。
吉田は、その喜びは束の間、あと数ヶ月で具体化しなければなりません。実現が可能なことは理解していますが、それが自分の力で出来るかは大きな不安でした。自分が企画して、通して、開発まで行う。今回は、女性を集めて手弾きの訓練をする必要もある。
吉田は自分にできないことを切り分けた。パソコンのプログラムでメロディー、コード、ベース、効果音などを創り出す開発は自分にはできないと即座に決断。社内でパソコンや音楽に関心のあるメンバーを探し出し、プロジェクトに参加してもらう必要がある。自分に出来ることは、バンドメンバーを集めて訓練することだ、と経験は全くないものの、即座に行動に移った。
当時、吉田の仕事には社員の部下は割り当てられて居らず、アルバイト君が2人いた。大学生の男子と女子だった。それぞれは理系の学生だったが、女性からは音楽に関心はないと協力を断られた。男子からは、知り合いに教育課程の学部でピアノが弾ける女性が居ると教えられた。早速、その1人と面談し、是非プレイヤーとして参加したいと意向を伝えてくれた。