指輪2     作:西戸 崎(Saito Misaki)


朝、丸ノ内線池袋行きは、通勤時間帯とはいえ逆方向でもあり、立っている人も少なく、ゆったりと男は座っていた。
熱心に本を読んでいたが、目の疲れも眠気もあり、本を閉じて大きく背伸びをした。
ちょうどその時、前の席に座っている若い女性に目が行った。
その女性は、本当に若くみえて、25,6歳と思われる。
しばらくの間、ウトウトとしながらも、男の視界に入っていた。
突然、その女性は、結婚指輪を外しはじめたのだ。
男は、それまで指輪などに気を取られてもいなかったので、光景に目を奪われた。
女性は、人の目線など気にする事もなく、指輪がなかなか抜けない事だけに気を取られ集中していた。
何度か、指輪をクルクル回している。ようやく外れた。
男もつられてホッとした。
女性は、ハンカチをバッグから取り出し、指輪を軽く包みバッグの脇についている小さなポケットにしまい込んだ。
男の疑問は、そこから始まった。
一体、指輪を外すということは、どういう意味なんだろう、と。
これから会社に行くのだが、会社では独身を装っている。
それとも、会社でのしきたりがそうなのか。いやそんな事はあるまい。これはすぐに打ち消した。
それとも、家では指輪をつけている事が強く求められ、本当は付けたくもないのだが旦那がうるさいので家ではつけざるを得ない、とか。
男は、完全に眠さも何処かに行き、想像を巡らした。
いやいや、それでは逆を考えてみようか。
朝、おもむろに電車の中で指輪をはめる光景を見たとしたら。
これは、朝から考える様な事じゃない。
しかしきっと、朝帰りだ。違いない。
この考えには、単純だが、男にはスッと呑み込めた。
しかし、いま目の前に起こった事に対しては、考えを巡らせる事はどうしてもできなかった。
男は消化不良のまま、自分の下車駅で降りて行った。
心をそこに残して。


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朝:メープルトースト、サラダ、ヨーグルト
昼:ビッグサイトでフライとハンバーグセット
晩:獅子唐と肉の炒め物、三穀物米ご飯、お味噌汁