2 前触れ

いま自分は、70歳を迎えている。
どうしてこうも、父親についてのまとめに気が急いたのかは今も分からない。人生の一つのけじめの歳だからかな、程度の受け止めをしていた。
そして数日をかけて、父親とともに過ごした長い年月を振り返り、その断片をノートにメモし、それをさらにワープロで時系列に並べ替え、私の目から見た父親の一生が出来上がった。私は、時間を掛けてこの伝記のような原稿を推敲し、父親と自分の対面を果たしたいと思っていた。酷い話だが、これまでどんなに父親が私に対して話しかけても、私はろくに父親の顔を見ず席を立ってしまっていたから、会話というものがほとんどなかったのだ。
幸せなことに、私はまだ現役で仕事をさせてもらっており、毎日を忙しく過ごしており、原稿への推敲の時間はずるずると延びていた。疲れも出たのか、この勤めを連続して数日休む事態が襲った。
いよいよ家で寝ていれば治るという状況ではなくなり、胃腸の痛みは激しくなり、食事も全く取れないまで追い込まれた。意を決して近くの大学病院に受診した。採血を行いレントゲンなどを撮り、診察を待った。しかしまだ軽く考えていた。薬が出て2,3日休めば済むだろうと。