13 結び

吉田啓吾は齢70歳を迎えたいま、その殆どの人生を親父との葛藤の中に生きてきたことを、もはや悔やむこともなくただひたすらに思い出としながら反芻している。一方では親父への憎しみの陰に隠れて、母親に対しての深い思い出を何一つつくることができなかった、自分の人生を悔い恥じている。
しかしこれまでの長い人生にあって、吉田健吾は幸せであり続けたという強い実感がある。決して不幸などと思ったことはなかった。親父のDNAはこのような点にも受け継いでいるのだろう。ある意味、親父の強い脛をかじり続けた、恵まれたボンボンの親父への憎しみでしかなかったのだろう。これほどに憎しみを持続させながら、微塵も自分が不幸だったと思っていないこの矛盾した考えは異常でもあるやもしれぬ。


これからまだ残された日々がどの位あるのかは不明だが、親父から受け継いだDNAが決して我が連れ合いに作用することなく、恩返しや孝行を尽くせるように戒めとして反芻して生きていきたいと思っている。