白石一文

この一ヶ月、狂ったように白石一文さんを読み続けておりますが、私は彼の何に魅かれているのだろうと考えをめぐらし、ハッキリ言って正直なところよく分からなく、最初の一冊目では、安直にロゴス・パトス・エロスの3点セットがふんだんに在るからさ、なんて思っているうちに完全パンチでノックダウンされ、その実何が効いているのか分かりませず、いやいや、そうでは在りませんよ、実は私はこの著者の作品が嫌い!等とも思っておりまして、こんなに気難しい男心なんて在りえないっ、と思いつつも、実は時々”私の心の中は全くそうじゃん”、なんて妙に感じ入ってしまってることも在り、つまりは自分解明のために読まされていると言って過言でなく、読めば読むほど深みにはまり、嫌な自分の性格に呆れ返って、さて、”ほならどうしますネン”とまた更に一冊を重ねるのでありまして、けれども当然限界というものが来るわけで、文庫の数には限りあり、はたまた金もなくなり、いよいよあと一冊というところまで進み、ホッと開放感に浸りつつ、この著者の偉いところは等と考えると、そうここまで来て考えると、優しさと、すぐにひびが入るガラスの心と、斜めから反応する歪な心と、を持ち合わせた、実に現代の人間らしい、そうして誰の心中にも大なり小なり潜んでいる確実な部分を、次は何に変化するか予想のつかない出来事とあわせ、更には電車の中では堂々と読めないような、耳を真赤に、勝手に染上げてしまうようなエロスで味付けしてしまう、それも複合してねちねちとした表現ではなく、素材の形がハッキリ分かる嫌味のない暗さみたいなもので、やはり上手いもんだなー、元編集者だもん、イヤイヤそれより白石さんの家系はお父さんも偉大な作家であり、双子の兄弟の弟さんもこれまた作家とくれば、やはり才能なんでしょうね、と今度は弟さんに行こうかなんて思っているのですが、この白石さんの文庫を次から次へと渡される、我が相棒も”ポチポチね”、なんていいながら、弟さんまではやめましょうよと無言のメッセージが伝わってくる今日この頃で、正直、白石一文さんという作家は、好きと嫌いが同居する、けれど次が出れば必ず読んでしまう、不思議な作家であります。福岡出身ということも気に入っています。