雨。

もう充分に恩義は尽くしたんじゃやないのか。
友人が言った。
いや、恩義はあの人が身を引くまで返し続けようと思っているんだ。
そうか、分かったよ。だが、体ボロボロにならないようにな。俺なんかは、昨年に会社を卒業して以来、孫のお守りが中心の生活だけれど、もうあくせく働きたいという気分は起きないぜ。ただボケないようにと、最近プログラムを作り始めたんだ。大昔にとった杵柄とでもいうのかな。ふと思い出してね。簡単なゲームみたいなものから創っているんだが、俺には、ゲームなどのアイデアは浮かばないね。考えてみれば、俺たちって若い時から、ゲームなんかやったことがないんだよな。
そう言いながら、友人は皆の空になった芋のお湯割りを作り始めた。傾げた頭の天頂が薄くなってはいたが、俺の退行してきた額よりはましだった。
はて、芋のお湯割りと頼んだだけで出てきたこの酒の銘柄は何だろうと思った。まろやかな味で、飲み過ぎを気を付けなければ。店が用意した黒いボトルに移し替えられた酒は、いかにも重厚に見える。
友人が再び口を開いた。
のんびりした生活なんだけれどな、この間ビックリしたことがあったんだぜ。メールに書いたっけ?
朝、かみさんが突然にな、何してるんですかこんな早くから。ネクタイしめて背広まで着て。どこかに行くんですかって。
俺はね、そんなことしてるって気がつかなかったんだよ。ちょっとぼーっとしていた状態かな。霞がかかっているというのかな。
。。。。。