8.転機

今回、小腸GISTという非常に特殊な病気が入院し発見されて、改めて10年前にこれまた会社の健診で発見された腎癌の手術の事を思い出した。
その当時には既に父親も他界して6年ほど経っていたが、癌宣告を受けて今回のように父親との関係を思い出すことはなかった。何より初めての大病であり、この先の運命について不安におののいていた。
父親が亡くなった年に同期して、転職という大きな転機を迎えてもいたが、新たな仕事に就いての不満や葛藤は全くなかった。非常に幸運であったと思う。しかし、自分の運命については、下降線上にあるとの意識が当時生まれていた。
その後の10年間を振り返ると、腎癌の手術以来、当初は転移についてかなり敏感で過ごしていたが、後半にはもはや転移は生じ無いものとして過ごして来た。
仕事においては、転職者としてはかなり恵まれた人生だったろう。苦労は無いわけでは無いが、思う存分の役割を果たせたし十分な満足と誇りが持てた。ある意味、新しい人生が生まれ過ごすことができたのだろう。この幸せなまま、仕事をゆっくりと手仕舞いし人生を終えていくと思っていた。
再び大きな病に倒れるなど、これぽっちも思ってもみなかった。現在はまだ治療開始の途上であるが、一つは現在の仕事のバトンタッチの良きチャンスであり次の自分はまた新しい何かを求める人生である、という思いと、一つはこの病の先が何処にあるかが不安で明るい目標が描けない、という、双極する思いに包まれている。
これまでの10年は、十分に納得できる長い10年であり、同様にまた新しい転機となる人生が始まる10年であれば幸いである。保険請求のための診断書を見た。この表記が胸を刺す。