9.原稿用紙

普通の勤め人をやっている限り原稿用紙にはほとんど縁がないと思う。かく言う私もそうです。
けれど時折ライターの虫がムクムクするときに、おもむろに原稿用紙を取り出しては万年筆で書き始める。そう、原稿用紙には万年筆なのであります。
などという拘りは、もう既に薄れておりますが、それでもお気に入りの原稿用紙は、切らすことなく保管しています。


ー試してみてください200字詰め原稿用紙
若い頃には、形に囚われて色々な原稿用紙を試してみました。最近ようやく落ち着きましたのは、満寿屋、LIFE社の200字詰め原稿用紙が気に入って使っています。もちろん縦書き原稿用紙ですが、字の枠が大きくて大きくダイナミックに書きたい自分には合っています。小さいマス目に向かうと、手に力が入ってスラスラという感覚が生まれません。
万年筆で書くと昔はよく掌と原稿用紙を汚したものです。万年筆の使い方が悪かったものと思われます。今は、大きな字で、力を入れずに掌を浮かす様にスラスラと書ける様になり、掌を汚すことも、原稿用紙を汚すことも無くなりました。これは、マス目の大きな200字詰めの原稿用紙を使い始めたおかげだと思います。


ーなぜ縦書きか
もちろん原稿用紙には縦書きの他に横書きも売っております。横書きの本やレポートのためには横書きを、縦書きの本やレポートのためには縦書きを、という使い分けなんでしょうね。
けれど私自身の今の使い分けでは、横書き原稿用紙は登場しません。それは200字詰め原稿用紙のせいだと思っています。この原稿用紙を使うと、日本語はそもそも縦書きの文字なんだということを教えられます。スラスラと書くには、縦流れがスムーズであることを改めて確認させられてしまいます。
昨今、ビジネス文書で縦書きはほとんどありませんが、縦書きする方が思考に馴染みやすいという人もいらっしゃるでしょう。私の場合は、ほぼ日常のビジネス関連の資料は、ダイレクトにワープロに向かって作業します。ノートやメモ用紙や、よしんば原稿用紙などに下書きなどはいたしません。
儀式のときに原稿用紙と万年筆ということをどこかの項で書きましたが、誠にその通りです。改まって遠くの人に向かい合って手紙を書いたり、気分や環境を大きく変えたいときに原稿用紙に万年筆で臨みます。一度試してみてください。
きっと、乱雑な机の上をささっと片付けて、手を洗って、お茶でも飲んで、さあ、っと気合を入れて、それからおもむろにペンを取られていることでしょう。不思議なことです。


ー原稿用紙上は清と乱の戦い
折角原稿用紙に向かうんだからと、間違えちゃならぬと緊張してしまうかもしれません。余計に間違えてしまいます。
私は、ほとんどワープロで仕事をしますので、漢字の忘却は恐ろしい事態にまで陥っています。ですから気分を改めて原稿用紙に向かっても、最初の頃は漢字が出てこないと情けなさと恥ずかしさにイライラして投げ出したくなりました。
思い切って、忘れた漢字はひらがなで書くことにしました。どうせ最後はワープロで清書しますから、その時に漢字にすればいいんだからとの割り切りです。そうして逆に美しいひらがなを書く練習に置き換えてしまいます。
今度は、途中で文章を書き換えたい思いに囚われます。そんな時は、文字枠が広い特徴を活かして、余白を使ったり、1行の中に2行書いたりして修正を施します。どんどん紙面が真っ黒になり始めますが、ここまでくると快感です。そうです、原稿用紙に向かう時はできるだけ美しく書きたいという清の気持ちと、どんどん真っ黒になる乱の気持ちの戦いですが、乱が勝つのです。
その真っ黒の原稿用紙を、新たな原稿用紙に清書し直す必要はありません。意識が内容に焦点がある時にこそ、次の原稿に進みましょう。清書は区切りがついた時や最後にワープロで行いましょう。


ー集中するのは30分
私は、思いついて以来、この知の小道具をダイレクトに、ブログに向かってiPadで書き続けていますが、それに要する時間は概ね30分ほどです。読まれて分かると思いますが、あまり推敲も、それどころか読み返しすら致しません。結果、意味不明や誤字脱字が散見されるのです。それでもいいのです。だらだらと画面に向かっても無駄な時間が増えるばかりです。さっさと30分で切り上げブログにアップしてしまいます。
原稿用紙に向かう際も同様です。30分以上も万年筆で何かを書いているということは致しません。もちろん興に乗って止まらない時は、徹夜しても書き続けます。