11.エレベーターピッチ

エレベーターピッチはあまり日本では馴染みのない言葉だ。平たく言えば、エレベーターの中で意中の要人に出会った時に、エレベーターの中で一緒にいる非常に限られた時間の中で、かねてよりの提案を行い相手の心を射止めるコミュニケーションと言うかプレゼテーションのことを指している。
局面は大きく異なるが、私の場合もこのようなエレベーターピッチ或いはタクシーピッチなどを日常から実践せねばならない環境にいる。それはあまりにも上司が忙しく瞬間の時間を盗んでプレゼテーションをし決済を得る必要に迫られるからだ。


ーエレベーターピッチはテクニックではない
誰かが言った言葉だが、プレゼテーションに必要なことはロゴス(論理性)、パトス(驚き)、エロス(魅力)の3つの要素だと言う。まさにその通りだと思う。
がしかし、エレベーターピッチが日本人に中々受け止められないのは、そこに信頼やロイヤリティが抜けていることにあるからではないかと感じている。つまり言葉だけではごまかされないぜ、ということなんだろう。
時間がない中、旧知の人であろうが顧客であればなおさらだろうが、エレベーターの中の様な短い時間で自分の意見を聞いてもらい、提案を受け入れてもらうことは、信頼やロイヤリティに裏打ちされている前提条件が必要なんだと思う。
基本は、テクニックではないのだ。


ーエレベーターピッチは、直訴の心構えが必要である
エレベーターピッチは、直訴そのものでもある。前項と矛盾するかも知れないが、信頼やロイヤリティがない中での直訴は昔の世界では、命と引き換えだったらしい。それでも直訴の内容が受け止められる可能性はほぼなかったと言う。
現在のビジネスの世界では、命と引き換えはありえないが、受け取った直訴内容は、自宅の郵便受けにポスティングされたチラシの様な効果でしかない。それは、求めたものではなく、単に手渡されたものだからに他ならない。
無理やり手渡されたチラシは、内容がどうであれ、無礼な奴、という印象しかないだろう。
つまり成功物語として描かれているエレベーターピッチは、偶然のなせるおとぎ話に近いものかも知れない。


ー信頼やロイヤリティの醸成
信頼やロイヤリティがない相手からの提案は、まず受け止められないだろう。これは自分が受け止める側に立ってみればすぐに分かる。
上司や顧客から、信頼を得るためには、これはいわゆるビジネス問題であるが、時間を掛けての醸成が必要である。これがロイヤリティを認められる所以である。
ここからはテクニックだ。
そのためには、相手の必要とする情報に常々目を配り、机下に置くことだ。机下とは、相手の部下を通じて渡してもらったり、訪問した際の名刺に添えるなどを言う。
この時に、自分なりのコメントを添えると良い。自分の損得は無視して率直に相手の役に立つ(役に立つとは相手にとって有益不益を問わず)情報に、ちょっとした私見を添えると良い。しかし、これは提案ではない。提案が見え隠れすると、信頼は醸成されない。
つまり情報とともに率直な私見を、自分の損得に無関係に長い時間実行してくれるという実績が、一度は話しを聞いてみようかという気にさせる。かどうかは、保証の限りではないが。
これは、上司との関係についても同様であるが、信頼やロイヤリティは、テクニカルに生まれるものではないことを承知すべきだ。相手の方が上手だと言うことも承知すべきだ。


ー信頼が築けロイヤリティが認められたら直訴は届く、が
前項の状態が築けたら、ある程度の信頼が得られたことになるだろう。そうしたら直訴はある程度の可能性を持ってくる。しかし、腹をくくるべきは、やはりビジネス上の死罪はあるかも知れない、ということだ。
そのためには、直訴の内容が、つまり提案の内容は、自分の利益に関係してはならない。
率直に現在情報を伝え、最後に僅かに自分の意見や判断を簡潔に述べる。その意見は僅かでも自分の立場に有利になる結果だったら、その意見は述べるべきではない。
①率直に現在情報を伝えるには、公開情報の引用を分かり易く箇条書きに(推測は述べてはならない)
②自分の意見を簡潔に述べるには、率直が全てである。しかし率直は感情的になりがちだ。分かり易く簡潔に感情を排して述べよう。
③①②の結果、相手の逆鱗に触れ、切腹となるかも知れないが、それは覚悟せねばならない。